ホームレスについて-人に優劣をつけること-

 以前、人気 YouTuber Daigoさんが、ホームレスや生活保護受給者に対する差別的な表現で大炎上していましたね。悲しいことですが、そのように思う方が一定数いるのは仕方がないと思います。

 この件で思ったことは、 Daigoさんが良い家庭に生まれて一流大学を卒業し、かなり稼げる人になれたのは、 Daigoさんの努力だけでしょうか、ということです。

 生まれた国、生まれた性別、生れた家、育った環境、これは、たまたまだったと感じています。 私は 特別恵まれた家庭に生まれていません。けれども、衣食住に困ることはありませんでした。 月並みな教育も受けることができました。 これは、たまたま運が良かっただけだと思っています。

  私はホームレスの方達は、卑下される方達ではないと思っています。 それは過去に私がホームレスの方達と接したことがあるせいかもしれません。

 私は20代の頃、台東区の小さな病院で短期間だけアルバイトをしました。その病院には、雨が降ると救急車がかならずやってきました。(30年くらい前のことです)

 私より前から働いている年下の准看護師Aさんは「また来たよ」とうんざりした顔で教えてくれました。 救急車に乗ってくるのは、いつもホームレスの方でした。雨が降ると、決まってホームレスの方が救急車で病院にくるのです。准看護師Aさんは、自分の足で歩いて入ってくるホームレスの方を処置室で寝かせて、慣れた手つきで血圧を測定し、心電図をとりました。ホームレスの方はたいてい元気そうに見えましたが、院長の命令で検査を実施していました。検査は状態で判断するのではなく、救急車できた患者さんには「バイタル測定と心電図測定」がパックになっていました。

ホームレスの方は、手袋をつけないと手が真っ黒になるくらい体も服も汚れていました。冬場は薪にあたっているのでとくに真っ黒のすすがついており、バラパラと落ちるすすで処置室のベットが汚れました。

なぜ雨が降るとホームレスがくるのか?

なぜなら、ホームレスの雨宿りの場所が、病院だからです。

それを知った時はかなりの衝撃でした。

私はその病院でアルバイトをする前は、東京の大学病院に勤めていました。大学病院で最先端の医療に触れ、田舎では助からない命が、都会では助かる現実を知りました。

さすが東京!田舎出身の私は、東京の病院は、どこも内容が素晴らしいと思い込んでいました。

しかし、このような野戦病院があることも知り驚きました。(野戦病院のようだ、とはアルバイトの医師が言っていた言葉です。)東京の医療の表と裏でした。

後で分かったことですが、その病院の近くにホームレスが集うドヤ街があったそうです。

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私が色々な処置をしている時、ホームレスの方たちは、いろいろなことを私に教えてくれました。

ある時はダンボールで上手に家を作る方法、ある時は大阪から無銭乗車で東京まで来る方法、ある時はタクシーにタダで乗る方法など。

このような情報は、ホームレスの方達の間で共有されているのだということがよくわかりました。 

決して褒められることではありませんが、この方達の生きる術なのでしょう。

 ホームレスの方は臭いはきついし、手足は真っ黒だし、正直、近寄りたくないなーと感じる方達ちだと思います。しかし、話をすると愛らしい方達だなと感じていました。 

看護師はいろいろな生活レベルの人、色々な精神状態の人、多種多様な人々と接する職業です。 どのような方でもケアをすることが求められています。 人間を理解するということがとても大事になってきます。

ホームレスの方の血液検査をすると、何かしら異常が出ます。 アルバイトのドクターは、体の状態が悪いので入院をさせます。しかしホームレスの方は、同じ場所で規則に囚われた生活をすることが難しい方達です。だから、勝手に病院からいなくなるようです。そこで、院長からアルバイトのドクターに「入院させるな!」と、お達しがあったそうです。

ホームレスの方達は、みんなと同じような生活はできません。いや、みんなと同じ生活をしないことを選択した人たちです。

時々、電車から川沿いにテントをはって生活している方達の様子が見えます。あの方達は税金を払う生活を放棄したのでしょう。土地代を払う生活を放棄したのでしょう。アパート代を払う生活を放棄したのでしょう。

暑い時はめちゃくちゃ暑く、寒い時はめちゃくちゃ寒く、食べ物もまともにない時もあります。ふかふかの布団に寝ることもないでしょう。オシャレもできません。

その不自由さがあったとしても、時間や規則に縛られない、人間関係の煩わしさがない、そのような生活を選択したのだと思います。

頭脳が明晰で、多額の収入を得る職業につき、多くの税金を払う人は、確かに凄い人なのでしょう。

そのような人は、ホームレスの方達を蔑む権利はあるのでしょうか?人に優劣をつける権利があるのでしょうか?

たまたま日本に生まれて、たまたま人より勉強ができて、たまたま裕福な家庭に育つ人もいます。一方で、たまたま日本の貧困層に生まれて、たまたま失業して、たまたま住むところがなくなった人がいます。

そうです。たまたまです。たまたま女性に生まれ、たまたま衣食住に困らない環境に生まれた私。良いも悪いもたまたまです。

努力が足りないんだ、という人もいると思いますが、努力ができない人達もいると思います。

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みんなと違う生活を選択した方達。私はそのような方達を支えたいと、ホームレスを支援するNPOに寄付をしています。

なぜなら、もしかしたら、その方は私だったかもしれないからです。

どこの国で生まれてどの性別になるか、どの親の元に生まれるかは、神のみぞ知るとしか思えません。

だから、努力が足りないから貧しいという考えは持ちたくないと思っています。

皆さまはどう考えますか?

今日も読んでいただきありがとうございました。

Profile

大友光恵
大友光恵
大学講師 ( 公衆衛生看護学)
興味関心は、母子支援のための病院と地域の連携、看護職のモチベーションアップ、女性の生きる力を引き出すこと。
大学講師 ( 公衆衛生看護学) 興味関心は、母子支援のための病院と地域の連携、看護職のモチベーションアップ、女性の生きる力を引き出すこと。