“仕事ができない新人”を辞めさせない職場に必要な視点~“仕事ができない”の裏側にあるもの

最近、ある民放局のドキュメンタリー番組で、
20歳の青年が地方から東京に出て、パン職人として修行する姿を見ました。
そのストーリーの中には、新人を育てたいと願う方々にとってのヒントや示唆が数多く含まれていました。

その姿には、多くの職場が抱える「新人育成」の難しさが、浮かび上がっていたように感じます。

ではどうした良かったのか、「辞めさせないために、何ができたのか?」

私も21歳で田舎から東京に出ました。彼の言葉にできない気持ちがとてもわかりました。そして、これまで多くの人の支援に携わってきた視点から、新人を辞めさせないために考えたことを最後にお伝えします。

“遅刻”というサイン

彼の東京での生活は、大変な日々でした。

朝5時の出勤。慣れない生活。体力も、生活リズムもついていかない。
そして、彼は何度も遅刻を繰り返すようになります。
パン生地のグラム数を間違え、中に注入するクリームの量も安定しない。いつまでたっても覚えられない。
注意が続く中で、次第に彼への“期待”は薄れていったように映りました。

同期は一人。努力家の女性で、1年目で全国大会に出場するほど優秀。
比較されることも多く、彼はどんどん自信をなくしていったのかもしれません。

見えない孤独と、心のSOS

彼は「嫌なことがあるとカラオケにいく」と語り、
休日には一人でカラオケに行く姿が紹介されていました。

近くに何かあったときに駆けつけてくれる友達はいません。

初めての金銭管理、気づけば月末にはお金も足りません。
学生の時に、一人暮らしの金銭管理を教えてくれる人いないですものね。

食事づくり、洗濯、何から何まで、初めての一人暮らし。分からないことだらけだったと思います。

「東京」は魅力的だけれども、物価も高く、どこにいくにも電車代などお金がかかります。

彼の基本給はいくらだったのでしょう?

自由に使えるお金はいくらあったのでしょう?

東京というキラキラした特別な世界、刺激と不安が混ざり合う環境の中で、
ストレスが蓄積し、うまく対処できなくなっていたのではないかと感じました。

もしかしたら、あの“遅刻”は、
心が限界を迎えているサイン
だったのかもしれません。


優しさも持ち合わせていた彼

彼の良さが現れたのは、同期の女性が全国大会に向けて必死に練習し、
メンタルが危なくなっていた時でした。

彼女に声をかけ、寄り添う場面がありました。
彼は思いやりのある優しい性格だったのです。

パン屋の先輩も「ゆっくりの子もいる」と、見守ろうとしていた様子がありました。
けれど職場全体で、
「遅刻が多い」「仕事を覚えない」やる気がないというレッテル
彼に張り付けていった
ように見えました。


若い職場に“気づける視点”はあったか?

パン屋で働くスタッフは、ほとんどが若い世代でした。
それぞれが自分の仕事に精一杯で、
他人の小さな変化やサインに目を向ける余裕はなかったのかもしれません。

遅刻という心のSOSに気づける人がいなかった。

東京の孤独に気づける人がいなかった。

彼の孤独とさびしさに“気づける文化”小さな良いところを承認するサポートがあれば、
彼の1年目は、違ったものになっていたと感じました。


私も21歳で東京に出た時は不安でした

私も、21歳で北海道から上京し、東京の大学病院に就職しました。
1年目は、新しい環境と慣れない仕事に疲れ果てた日々でした。

東京の風景は異色でした。ビルや家がひしめき合って、道行く人が皆冷たく感じました。刺激があるのだけれど、殺伐とした風景に慣れるのに時間がかかりました。

仕事でも、不安が大きかったです。できない自分にモヤモヤしていました。

それでも、同期が7人いたことが私を支えてくれました。
ご飯を食べながら愚痴をこぼし合い、
「私だけじゃない」と思える場所があったことが、踏ん張る力になりました。

彼には、それがありませんでした。
それだけで、人の心は、簡単に折れてしまうのだと思いました。

大好きなおじいちゃんの死に立ち会えなかったこと

さらに印象的だったのは、1年目に
彼の大好きだったおじいちゃんが亡くなったことです。

「お金がないから帰れない」と言って、
代わりに自分が働いている姿の写真を棺に入れてほしいと家族に頼んだそうです。

私が、もし彼の親だったら――
お葬式のための帰省に、交通費を出してあげたでしょう。
そして「お金をだすのは今回だけだよ」と伝えると思います。

なぜなら、大切な人の死は、心理的なダメージが大きいので、心の整理をするため、葬儀に参列することは必要だと思うからです。

仕事以外のストレスにうまく対処するには、20歳という年齢は、まだまだ未熟で、
ある意味では“子ども”の部分を抱えたまま社会に出ているのが現実です。

だからこそ、心が揺らいでいる時に寄り添い、支えてくれる大人の存在が必要だと思います。
それを「甘え」や「自己責任」と切り捨ててしまうことの危険性を感じます。


新人教育に必要な視点とは?

「遅刻が多い」「やる気が見えない」
こうした言葉で片づけられる前に、
“なぜそうなっているのか”に目を向けられる組織や上司が、今求められているのではないでしょうか。

今、多くの企業が「若者がすぐ辞めてしまう」ことに悩んでいます。
でも、それは若者の“弱さ”や“甘え”だけが原因なのでしょうか?

彼の姿を通して、私は次のような配慮が必要だと感じました。

これらが、「新人が辞めない職場」をつくる土台になると感じます。

最後に

私は、東京に出てきた彼の“勇気”は、素晴らしいと感じています。
彼の中にあった可能性を、まだ伸ばすことができたかもしれません。

若者を「いたらない存在」として扱うのではなく
私たち大人が「どう関われるか」を、もう一度問い直す必要があると感じています。

私は、今の若者も、昔の若者も基本的なところは変わっていないと思います。

人の気持ちが分かる人や話を聞いてくれる人は信頼するし、力を誇示する人、蔑んだり嫌みを言う人、不誠実な人は嫌いです。

「今の若者は!」と思う人は、自分の若い時を忘れているか、自分の良いところしか覚えていないだけです。

みなさんは、どう思いますか?


そうは言っても、上司は仕事が忙しいと、感情がはいり冷静に話ができないかもしれません。

そのような時は中立的な立場で、話ができる人を置くことが大切です。

会社の保健室的な存在として、保健師をサポートに入れてみてはどうでしょうか?

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